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森林体験活動における安全管理Q&A

 


主催者として

 

Q01.

体験活動を主催する場合、安全管理についてどのように対応すればよいのでしょうか。

 

A.

(1)近年、大人や子どもは体験活動が不足しており、参加者は全くの初心者であるということを前提として対応しなければなりません。また、リーダーやスタッフなどの指導者も同様に経験の少ない者が多いことを前提に対応する必要があります。そして、ケガや事故が起きることを前提に、その場合の対策をきちんと視野に入れて安全管理を行うことが大切です。
(2)プログラムの実施と安全の確保について、あまりにも安全意識に過剰になると折角の学ぶ機会を奪うことにもなります。主催者は常にフィールドや自然の状況、参加者や指導者の行動等を把握しながら、最適なプログラムを実施するよう心がける必要があります。この場合、事前の周到な準備や経験が必要となります。
(3)自然体験活動の大きなねらいの一つは、参加者に、自然の中で「自分の身は自分で守る」という危険予知能力や自己責任の意識を養ってもらうことにあります。そうしたことを繰り返して意識させることが大切です。

 

Q02.

体験活動における安全確保のために、主催者が指導者に求める基本的なことはどのようなことでしょうか。

 

A.

(1)指導者には「危険を予知すること」と「危険を避ける判断と行動」の2つ注意義務があると言われています。危険予知には、そのための意識や知識、技術が必要となります。また、危険回避のために、撤退や避難するという判断や行動が求められることがあります。現場での活動中止等の判断については、現場の状況や参加者の年齢・経験等に対応した判断基準をつくるなど、ルール化しておくことも必要です。
(2)指導のプロ、ボランティアなど、立場の違いにかかわりなく、指導者は専門的なトレーニングを受け、基礎的な知識や技術、救急法等をきちんと身に付けておく必要があります。また、そうした指導者は、万が一の時のために少なくとも2人は必要です。

 

Q03.

子どもを対象とする体験活動を主催する場合、特に大切なことはどのようなことでしょうか。

 

A.

子どもを対象とする場合は保護者との信頼関係が極めて大切であり、事前説明会等を開催して、活動の趣旨やプログラムの内容、指導者のこと、指導の方針、ケガや事故の場合の対応等について説明し、理解を得ておく必要があります。事前説明会等に参加できない保護者には文書で知らせます。その上で、参加についての保護者の同意を得ておくことが必要です。

 

Q04.

体験活動に当たっての保険加入について、主催者はどのように対応したらよいのでしょうか。

 

A.

主催者としては、少なくとも損害賠償責任保険には加入しておかなければなりません。また、傷害保険に加入することについても、子どもを対象とする場合をはじめ、主催者として参加者にはっきりと意思表示しておく必要があります。いずれにしても、できるだけリスクの少ない形で安心して活動ができるよう、最善のリスクマネージメントを講じる必要があります。

 


指導者として

 

Q01.

森林体験活動の安全管理について、企画段階において、指導者として特に重要なことはどのようなことでしょうか。

 

A.

体験活動の安全管理については、企画の段階が最も重要です。企画の段階では、活動の目的、対象とする参加者、募集の方法、スタッフの役割、保険への加入等の検討のほか、活動場所の下見、装備や救急用品の準備等があります。また、特に子どもを対象にする場合は、事前説明会や保護者への連絡方法等も含まれます。あらゆる事態を想定しながら、安全に関することを企画の段階から組み込んでいくことが非常に重要になります。

 

Q02.

体験活動の安全管理に関して、指導者に求められる基本的なことはどのようなことでしょうか。

 

A.

安全に対する能力や技能も当然必要ですが、先ずは安全管理についてどういう心構えを持つかが重要です。野外活動での安全の基本は、当たり前のことですが、「自分の安全は自分で守る」ことにあります。一般の人が安心して参加するためには、参加者もスタッフも自分の安全は自分で守るという意識をしっかり持つことが基本です。また、指導者が基本的に身につけておかなければならないことは、自然という非日常的な場面で、何時、何が、どう起きるかわからない状況に適切に対応できる能力や技能です。

 

Q03.

森林の中で活動する場合、指導者が特に気を付けなければならないことはどのようなことでしょうか。

 

A.

(1)森林内での活動に共通するのは自分の足で歩くことです。その際に、転倒や転落に注意することが大切です。疲れない歩き方、自然な歩き方といったことが非常に大切です。そして、捻挫や骨折等のケガは、山を下りるときとか,活動が終わりだという寸前に起きる可能性が高いので特に注意が必要です。「最後です。ここに注意しましょう。」といった声掛けが安全につながります。
(2)また、体調には十分に気を付けなければなりません。どんな人でも、体調が急変したりすると、能力や技能が低下し、重大な事故につながります。参加者には、先ず挨拶とともに、「体調はどうですか」、「しっかりと食べてきましたか」といったことを聞いて、事前に体調を確認することが大切です。

 

Q04.

リスクを伴う活動を行う場合、指導者が特に気を付けなければならないことはどのようなことでしょうか。

 

A.

自然の中で活動する場合のリスクには言葉どおりの危険と、将来何が起こるかわからないという不確実の2つの要素がありますが、こうしたリスクとうまく付き合うということです。危険がないように、不確実なことがないようにすることを突き詰めていけば、何も活動を行わないことが一番いいことになりますが、それでは自然体験活動の目的に反します。リスクを事前に察知しながら、その危険の可能性をいかに少なくして活動を行うかです。リスクとうまく付き合うことで、活動により得られる成果とリスクとのバランスを取ることが重要です。

 

Q05.

天候の急変に対して、指導者はどのように対処したらよいのでしょうか。

 

A.

突然の落雷等は重大な事故につながります。こうした危険に対し、先ず事前に天気予報を聞き、自分で天気図を読みながら天候の変化を予想し、実施するかどうかを判断できる能力が必要になります。また、行動を起こした後に天候が急変した場合にも、できるだけ早く意思決定をしなければなりません。前に進むのか、その場でやり過ごすのか、引き返すのかなど、どれが一番安全かを決めて、すばやく行動に移すことが大切です。

 

Q06.

道迷いに対して、指導者はどのように対処したらよいのでしょうか。

 

A.

道に迷わないためには、先ず活動場所を事前に地図上で確認するとともに、下見によりルートを確認しておくことが大切です。道に迷うと、自分がどこにいるのかわからず、どの方向に進んでいいのかわからなくなります。その場合は、勇気を出して自分の位置がわかる地点まで戻って安全を確保することが重要です。また、日没が近いときや天候が悪いときなどには、むしろ動かない方が安全な場合があります。

 

Q07.

危険な動物、特にスズメバチに対して、指導者が注意すべきことはどのようなことでしょうか。

 

A.

スズメバチに刺される事故が最も多い状況にあります。スズメバチは、夏の終わりから秋にかけて最も攻撃的になります。この時期の活動では、フィールドの下見が不可欠の予防対策です。その他の時期でも巣を発見したときは、その箇所に目印を付け、近寄らないように注意を喚起することが大切です。また、スズメバチは自分たちを守るために攻撃し、特に黒いものの動きに反応する特性があります。黒色の服装やザックなどは避けるとともに、帽子、長袖・長ズボンで肌を露出させないこと、また、香水などの化粧品は控えることが大切です。

 

Q08.

有毒な植物に対して、指導者が気を付けることはどのようなことでしょうか。

 

A.

指導者として、有毒な植物について認識を深めておくことは勿論ですが、場所や季節によって状況が変わるので、それぞれの活動に応じた対策を講じておく必要があります。また、現場で有毒な植物を発見したときは、参加者等にしっかりと注意をすることが有効です。この場合、印象深く説明することが効果的です。例えば、「○○事件に使われたトリカブト」など。ハゼノキ、ヤマウルシ、ツタウルシなどに対しては手袋、長袖・長ズボンなどの着用。事前の下見も欠かせません。

 

Q09.

活動場所の下見に当たって、指導者は基本的にどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。

 

A.

下見は、同じ場所であっても活動内容や実施時期によって状況が変わるので、その都度、スタッフ全員で行います。危険な場所や植物、スズメバチの巣、トイレの位置等の確認。天候の急変に備えたエスケープルートの確保。携帯電話使用の可・不可の確認等を行います。

 

Q10.

万が一重大な事故が発生した場合、指導者はどのように対応すればよいのでしょうか。

 

A.

重大な事故の場合、救命、搬送、連絡等、何から先に実施するのかの判断が必要になります。そうした場合を想定して、あらかじめ指示をするリーダーを決め、その下に連絡をとる者、手当をする者、搬送をする者等の役割を決めておくことが必要です。また、事故の発生により参加者がパニックにならないような対応や二重事故にならないような措置が必要です。こうした事態が発生する確率は低くても、万が一のため普段から十分に訓練しておく必要があります。

 

Q11.

事故後、指導者としてどのように対応したらよいのでしょうか。

 

A.

指導者としては軽いケガであると考えても、ケガをした参加者本人がどう思っているのかを見極めて、それに対応することが必要です。ほんとうは重大な事故につながるものであったかもしれませんから、何が原因であったかをキチンと見極める必要があります。どういう状況で、どのような事故が起きたか、どうしたら防げたかなど、事故事例を蓄積して情報の共有化を図り、未然に事故を防止することが重要です。

 


教育の面から

 

Q01.

子どもたちにとって,森林・林業体験学習(宿泊を伴う滞在型のもの)とはどのようなものなのでしょうか。

 

A.

子どもたちにとって、日常の生活とは異なる地域での生活体験であり、いわゆる学校教育のイメージとは異なるものです。それは、森林・林業体験そのものはもとより、睡眠、食事や入浴、あるいは排せつも含めて全てがプログラムであり、一つ一つが大きな教育的意味を持っています。

 

Q02.

子どもの森林・林業体験学習における安全管理について、どのようなことがポイントになるのでしょうか。

 

A.

子どもたちを対象とした安全管理のポイントを列記すれば、次のとおりです
@体験学習期間中に例えば微熱が出たような場合、子ども本人の言うことを鵜呑みにすることはできません。睡眠時間の確保、食事や排せつの状況等、そうした滞在先の環境下でどうすれば熱が下がるとか、よくなるという経験は子どもにはありません。子どもがどうすればよいと言っても、それを鵜呑みにすると大きな病気につながりかねません。
A森林内での体験学習では、子どもたちが日常使ったことのない道具や物を使います。それも傾斜地で、大きくて重い道具、火や刃物等、普段は触ったことのないものを扱うことから危険も多いのです。
B学年やクラスなどを単位に大勢が参加する場合は、活動に対して積極性がなく、指導者の話に聞く耳をもたないような子どももおり、そういう中で刃物を扱って指を切ったりする事故が多く発生します。森林・林業に興味や関心のない子どもを対象にして体験活動を行う場合も同様です。そういうことにも注意を払わなければなりません。
C子どもの力でもあやまって他人に大きなケガを負わせたりするような道具も使います。自分自身がケガをしないことと合わせて、他の参加者や地域の人たちにも迷惑をかけないことを教えることも必要です。
D子どもの目から見ても明らかに危険に見える場合は事故が少なく、何でもなく見えるときに大きなケガをすることがあります。また,リーダーやスタッフが不慣れだと、危ないものを持っているときには注意をしますが、そうでないときは気が緩みがちで、そこに事故の原因が潜んでいます。
E親元を離れた子どもの体験活動で特に注意しなければならないのは「排せつ」の問題です。家庭から離れると我慢してしまう子どもが多く、活動中に些細なことで転倒・転落するとか、集中力が低下して指導者の注意を聞くことができないなど、いろいろな問題を生じることがあります。指導者は、「寝る」、「食べる」、「トイレに行く」という生活上の習慣に十分気を付けて対応する必要があります。
F危険な刃物を扱う活動の場合,時には声を荒らげなければならないこともあります。例え冗談であっても、刃物を他人に向けるようなポーズを取るような子ども(この場合は大人も)に対しては、指導者として厳しい姿勢で対応することが大切です。これは、まさに指導者としての力量の問題でもあります。
G面白い体験活動の展開は、安全を確保する上で重要な要素です。活動でリスクを排除しようとすると安全は十分確保されても、それでは活動の充実は図れず、参加者にも興味がわかず、結果として活動への参加姿勢は消極的となって、逆にいくら安全上の注意をしても聞いてもらえない状況が生じることにもなります。
H森林というフィールドの特徴は、他の河川や海等と異なってはっきりとした所有者が必ずいることです。その所有者に迷惑をかけないことが森林内での体験活動のルールであることを念頭におく必要があります。例えば、山火事を起こしたり、樹木を傷つけたりしないことです。

 


判例の面から

 

Q01.

自然体験活動において事故が発生した場合、主催者や指導者の法的な責任はどうなるのでしょうか。

 

A.

(1)一般に、自然体験活動において事故が発生した場合、その主催者や指導者には、ボランティアを含めて、法的な責任として「民事上の責任」と「刑事上の責任」が生じます。民事上の責任は被害者に対して一定の賠償金を支払うという責任、刑事上の責任は国家から刑罰権の行使を受けて刑に服するという責任です。
(2)細かく言うと、民事上の責任には「契約責任」と「不法行為責任」というものがあります。契約責任は、主催者と参加者の契約、参加者からの活動への参加希望に対し主催者は安全な活動を提供するという,いわゆる参加契約を結び、その際に活動の中で事故が発生した場合は主催者側がその契約に違反することから、問われる可能性のあるものです。
(3)また、不法行為責任は、例えば交通事故のように加害者と被害者の契約責任がない場合であっても法律上の責任を負わせるというものです。契約関係があっても、判例上は被害者にいずれの請求にするかの選択権を与えることが有益であると考えられており、実際の訴訟では、この2つの構成で主張が行われることが一般的です。
(4)契約責任と不法行為責任の違いは、後者の場合は被害者が加害者の故意・過失を立証する必要があるのに対し、前者の場合は加害者の方で自分に故意・過失がなかったことの立証をしなければならないという立証上の差異、そして後者の消滅時効は3年ですが、前者の場合は10年という消滅時効の差異があります。いずれにしても事故を起こしてしまった場合、民事上の責任としては契約責任と不法行為責任が生じます。
(5)刑事上の責任には、主催者側が負うものとして業務上過失致死傷罪があり、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金という重い刑が科せられます。また、ボランティアの場合は業務上とは言えないので、過失傷害罪あるいは過失致死罪が科せられ、それぞれ30万円以下の罰金又は科料あるいは50万円以下の罰金に処されます。なお、過失傷害罪は、被害者側からの告訴がなければ処罰されません。(このように、刑事上の責任においては、業務として行っている者については重い責任が科せられ、業務として行っていないボランティアの場合は軽くなっています。)

 

Q02.

自然体験活動を行う場合、そのプロとしての主催者や指導者の義務と責任はどうなるのでしょうか。

 

A.

(1)自然体験活動は、遊園地のアトラクションのようなものとは全く異質のもので、あくまでも主催者・指導者側と参加者側との共同作業といった特性があり、これによって自然に生じる危険をお互いに回避しましょうというのが大前提にあります。したがって、主催者や指導者は一般の人たちが知り得ないような自然の特異性とか、天候の異変にいち早く気付く能力とか、河川であれば深みとか流れの危険な箇所とか、そういったリスク環境に対してプロとしてリスクを予見し回避する義務があります。
(2)具体的には、フィールドを下見して危険な箇所は避けるとか、使用する道具を点検して安全な用具を準備するとか、天候の悪化を予測してコース変更を行うとか、危険をあらかじめ予見し回避する義務があります。自然を知っていればこそ、指導者は危険を回避する義務があるということです。
(3)自然という人間では支配できない領域での活動であり、当然、参加者側もリスクを負います。自然体験活動において各人の命や健康を守るのはあくまでも各人の責務であり、これが原則になります。参加者も指導者の指導に反して自から違う行動をとったという場合には、その行動については指導者としては責任を負いきれません。そこは参加者の自己責任という問題になります。いずれにしても、主催者や指導者はプロとして、ボランティアでも同じですが、しっかりと危険を予見し回避しておく義務があるということを認識しておかなければなりません。

 

Q03.

主催者や指導者が責任を問われる「危険を回避する義務」や、その場合の注意義務とは具体的にどのようなものなのでしょうか。

 

A.

(1)自然体験活動を行う場合、自分の活動する領域、エリアというものが大前提の土台としてあり、先ずこの土台の危険を回避することが必要です。そのために必ず下見をする。よく知っている場所であっても、季節や時間の経過とともに状況は変化しており、事前に必ず下見をして、活動エリアの危険性をあらかじめ予見しておくことが重要な点となります。下見では、利用するトイレなどの周辺施設についても点検しておくことが必要です。また、もう一つの土台として、特に自然体験活動では、天候に関する情報を十分に収集しておくことが必要です。
(2)自然の中で行われる活動では、しばしば指導者が参加者を見失うことがあります。自然の中で多くの参加者を相手にしていることを前提にして、参加者を見失わないよう指導者を配置することが必要です。また、指導者の数を揃えるだけでなく、指導者の役割分担をしっかり決めて、参加者の行動を見失わない体制を立てておくことが大切です。

 

Q04.

事故に伴う損害の公平性について、法的にはどのようになっていますか。

 

A.

(1)わが国の損害賠償制度は制裁のための制度ではなくて、損害の公平な分担というのが制度の趣旨になっています。被害者側であっても、損害の発生に寄与している場合には、それも損害の公平な分配としてしんしゃくするという制度があります。これが過失相殺といわれるものです。
(2)過失相殺をするためには、過失相殺能力というものが必要になってきます。これは、判例では事理を弁識するに足る能力といわれています。この事理弁識能力の程度は、一般的に小学生程度の知能といわれています。
(3)判例では8歳の子どもに過失相殺能力を認めたものあるいは否定したものがあり、明確に何歳だと過失相殺能力があるかということは難しい問題ですが、少なくとも小学校の高学年程度であれば、指導者の指導に従って安全に活動する能力があるだろうといえます。小学校の高学年レベルであれば、指導者の指導に違反した行動をとった場合には、その小学生の過失がしんしゃくされるということになります。
(4)被害者が幼稚園児や小学校低学年の児童で、被害者に過失相殺能力がないという場合であっても、親など保護者の不注意がしんしゃくされることがあります。これについては、被害者側の過失という判例上確立した法理があります。例えば、幼稚園児が指導者の指導に反して危険な行動をとったために事故が生じた場合、その幼稚園児の監督義務者である親などに過失があれば、その過失も損害額の算定において考慮するというものです。

 

Q05.

イベントの募集案内等に記載されている免責条項の有効性は、法的にはどのようになりますか。

 

A.

(1)参加者に対して「当団体では,事故が起きた場合の責任は一切を負いません」と書いた書面を提示して同意の旨署名させる全部免責同意書というものを見かけますが、これは過去の判例において全て無効とされています。人の生命にかかわる権利をあらかじめ放棄させるような契約は公序良俗違反で無効であるというのが確定した判例法理です。
(2)特に、平成13年4月1日に施行された「消費者契約法」では、指導者の過失の有無、過失の程度いかんにかかわらず、生じた損害を全て免除するという契約は無効と明記されています。ただし、消費者契約法は、指導者側の過失が軽微な場合に生じた損害の一部を免除するという一部免責同意書の有効性については今のところ触れていません。今後、これが訴訟での争点になってくると思われます。

 

Q06.

事前説明会での参加者との質疑記録等の法的な有効性はどのようになりますか。

 

A.

主催者や指導者側としては、事前説明会等で危険についてしっかりと説明しましたという形で議事録なり、説明書を取っておくことは、後々説明を受けなかったという人が出てきた場合、その説明の有無が争点となるような訴訟では有利な証拠になります。

 

Q07.

指導者がボランティアである場合の損害賠償責任はどうなりますか。

 

A.

指導者側がプロであろうとボランティアであろうと、安全に活動を終えるのが指導者の法的な義務です。そうした義務に違反したとなると、当然に損害賠償責任は問われます。例えば、道迷いなどによる場合、下見を怠ったとか、天候の急変を予見できなかったとか、そうした過失が問われることになります。従って、ボランティア活動であっても、それなりの賠償金が科せられることがあります。

 

Q08.

鎌や鉈等の危険な道具を使った活動における法的責任はどうなりますか。

 

A.

(1)危険な道具を使う活動においては、指導者はその道具の危険性を熟知して、その道具から生ずる危険を予見し回避する義務があります。その道具の特性から危険が予見できる場合には、参加者が間違った行動をとらないように、しっかりと指導監督する義務があります。
(2)参加者の数が多すぎて指導監督が行き届かないような場合には、参加者の数を限定するなど、指導者がしっかりと監督できる体制を整えることが大切です。危険な道具について熟知しているのは指導者ですから、指導者には参加者に道具の誤った使わせ方をしないよう参加者を指導監督する責任が問われます。
(3)参加者が指導者の指導に反した道具の使い方を行い、それにより事故が生じた場合、指導者が参加者のそのような間違った使用方法について一般に防止することが期待できなかったような場合には、指導者に過失はなく、参加者が自らの事故の結果を負担することになります。

 

Q09.

事故が発生した場合の初期対応として、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。

 

A.

(1)先ず、事故が起きた場合に主催者側が最初にやるべきことは、救命,救助活動に尽きます。従って、主催者は事故を防ぐという訓練だけではなくて、事故が起きた場合に、どれだけ迅速にかつ適切に被害を最小限に収める救助活動ができるか、日頃から訓練をしておく必要があります。
(2)第二に、同時並行的に救急病院、警察署等の関係機関への速やかな連絡が必要です。事故現場は混乱しているので、他の参加者の誘導や参加者の家族等への説明も適切に行う必要があります。また、弁護士として、事故が起きた場合にお願いすることは、事故現場を保存することです。できれば写真よりも事故の現場をリアルに捉えるビデオで把握しておきたい。
(3)警察の事情聴取の前には、必ず事故の状況を自分なりに分析しておくべきです。できれば弁護士と事前に打ち合わせをすることが理想です。第1回目の事情聴取は事故直後に行われるので、事故の状況を正確に認識できていないのであれば、少し時間をもらうか、その日は供述調書に絶対に署名はしないなどの方策が必要です。
(4)指導者側の安全体制の確立として、指導者の数や配置、救助訓練だけではなくて、事故が起きた場合に誰がどのような役割をするのかということをあらかじめマニュアル化しておくのも有効です。

 

Q10.

賠償額や慰謝料について、その額はどのようになるのでしょうか。

 

A.

(1)事故の結果や事故の態様に応じてケースバイケースで判断することになります。事故の結果でいえば、それが死亡事故なのか、それとも傷害事故なのか、傷害であっても後遺症が残るような事故なのか、それとも後遺症が残らない事故なのかによって分かれます。また、事故の態様でいえば、ずさんな過失があったのか、それとも注意していたけれども不幸にも起きてしまった事故なのかなど、さまざまな事情を総合して判断されます。
(2)賠償額については、最近の判例では、以前に比べてかなり人の命を尊重する傾向になっており、1億円という判例も珍しくありません。賠償額が高額化してきています。賠償額の内訳としては、死亡事故の場合では逸失利益というものがあり、その人が生きていたならば得られたであろう利益はいくらなのかを計算して決められます。
(3)亡くなった方にも死亡による苦痛という慰謝料が発生し、それが相続人に継承され、さらに相続人にも家族が亡くなったことに伴う慰謝料が発生します。その他、葬儀費用とか、諸々の費用、弁護士費用等が加算され請求されることになります。

 

Q11.

実際の損害保険請求の手続きは、どのようになりますか。

 

A.

(1)民事の損害賠償額は高額化する傾向にあり、損害保険に入っておくことは、自然体験という何が起こるかわからない危険な領域で活動する主催者や指導者にとっては最低限のエチケットです。最低限のリスクマネージメントです。
(2)損害保険には、賠償責任保険と傷害保険があります。賠償責任保険は、当事者間あるいは保険会社と被害者側の話し合いがついた場合、判決で賠償額が言いわたされた場合、訴訟において和解が成立したような場合に、初めて賠償責任保険が払われます。従って、実際に保険が支払われるまでには1年とか、2年とか、かなりの期間がかかります。
(3)他方、傷害保険は、事故が起きた場合には速やかに支払われます。ですから、傷害保険と賠償責任保険の両方に入っておくことをお勧めします。なお、傷害保険は、速やかに被害者側に対してある程度の金額が支払われますから、被害者側の精神的苦痛を和らげる効果があります。

 

Q12.

自然体験活動にかかわる事故事例として参考になるものを教えてください。

 

A.

(1)公立中学校の生徒が野外活動で山登りをしていて、風に飛ばされて崖の下落ちた帽子を取りに行き、誤って転落して重傷を負ったという事故です。その時、教師は、生徒が帽子を取ろうとしていることに気づき、いったんは止めるよう指示をしましたが、最終的には許してしまった。さらに、その教師は生徒が転落したことを知って自ら崖を下り、その教師も誤って転落し死亡したというものです。この事故については,生徒の遺族が学校設置者である地方公共団体を相手に訴訟を起こしました。この事故は、本来的には亡くなった教師の過失が問われた事件です。判決は、現場の状況からして、指導的立場であった教師は生徒が帽子を取りに行くのを止めさせるべきであったにもかかわらず、ただ止めるように注意しただけで最終的にはその行為を許してしまったことに教師の過失があり、その教師を雇用している地方公共団体は賠償責任負うべきだというものです。
(2)ボランティア団体の活動の中で起きた事故事例で、子どもが竹とんぼ作って飛ばしたところ、隣にいた子どもの目に当たって負傷したという事故です。判決では、ボランティアである指導者に過失があるとされました。つまり、竹とんぼが横に飛んでしまうことが予見され、竹とんぼを飛ばすに当たっては周りの子どもたちに当たらないよう適切な措置をするべきであったにもかかわらず、その措置を怠ったために事故が起きたとされたものです。
(3)いずれの事故についても防ぐことができた事故です。判例を分析してみると、指導者側の過失責任を問われた事故は、いずれも「その事故は防げたのではないか」というものばかりです。言い換えれば、「これは防げなかっただろう」というものは、指導者側の過失責任が問われないのです。

 


保険の面から

 

Q1.

損害保険とリスクマネージメントについて、どのように考えればよいのでしょうか。

 

A.

損害保険は、事故があった時に費用を補てんする保険という形で利用されています。そういう意味で損害保険は事後対策という捉え方ができます。一方、リスクマネージメントの考え方は事前対策といいますか、事故が起こらないようにするためにはどうしたらよいかという手法ですが、広い意味でのリスクマネージメントという捉え方をしますと、この事前対策とともに事後対策としての損害保険も範ちゅうになってきます。

 

Q02.

損害保険には、どのような種類がありますか。

 

A.

一つは傷害保険です。これはケガをした場合の入院とか、通院した時に支払われるものです。最低でも、傷害保険は必ず付けておくことが大切です。金額に応じて見舞金という形で支払うことができるので、傷害保険は必要だと思います。 もう一つには、主催者側の管理責任という問題があります。リスク対策という形で事前対策を十分に行って、その上で事故が起きたという場合には管理責任は軽減されるとは思いますが、相手があることなのでどうなるかわかりません。ましてや事前対策が十分にできていなくて事故が起きたという場合には、当然ながら管理責任が問われます。そういう場合に備えて、賠償責任保険があります。この保険も必要になります。

 

Q03.

一般的な傷害保険の仕組はどうなっていますか。

 

A.

(1)傷害保険の仕組は、保険の中で最も基本的なものです。先ず3つのキーワード(3要素)、「急激性」、「偶然性」、「外来性」でケガをした場合に傷害保険の適用対象になるということです。従って、ケガをすれば、何でも保険でカバーできるというものではありません。安易に「何でも保険でできますから」、「全て保険に入っていますから大丈夫ですよ」というような言い方をしない方が無難で、思わぬトラブルを避けることにもなります。
(2)例えば、履き慣れない靴で足にマメをつくったとか、半ズボンで草にかぶれたとか、当然本人が気をつけなければならないことを怠った場合には、傷害保険の適用対象にならないと考えられます。傷害保険の仕組という捉え方で見ると、傷害保険は言うまでもなく人に対する保険で、ケガをした場合の補償という意味での考え方でよいと思います。支払われる項目としては、入院した場合の日額とか、通院した場合の日額について補償するというような形になります。

 

Q04.

傷害保険の適用対象について、具体例を教えてください。

 

A.

(1)最近スズメバチに刺される事故が頻発しており、一度に多くのひとが刺されるケースが少なくありませんが、こうしたケースでは保険が適用されます。また、スズメバチには刺されなかったけれども、慌てて逃げる途中で、岩や木の根につまずいて骨折したとか、捻挫したとか、避けようにも避けられないケースがスズメバチの事故です。
(2)子ども同士で「ふざけあって」いて相手にケガをさせてしまう事故があります。この「ふざけあって」という表現は非常に難しいところがあります。傷害保険の中には、喧嘩は免責という表現があります。子どものふざけあいというのが喧嘩なのか、じゃれあいなのかを巡って解釈が大きく分かれます。明らかに闘争行為であれば傷害保険は免責になります。
(3)熱中症は、急激性、偶然性、外来性によるケガに該当しないので、傷害保険の範ちゅうから外れてしまいます。特約を付ける方法もありますが、基本的には傷害保険では補償できません。また、冬山での凍傷による疾病も同じことが言えます。
(4)山に行くとよくウルシにかぶれますが、この場合の保険適用は難しく、単純にウルシに触れてかぶれただけでは、傷害保険の範ちゅうから外れる可能性があります。足を踏み外して転落し、そこにたまたまウルシの木があってかぶれたような場合だと、原因が転落にあることから傷害保険の3要素から判断して、保険の範ちゅうになると考えられます。そういう意味で、事故については、結果だけではなく、原因ということも含めて判断することになります。

 

Q05.

傷害保険の免責事項とはどういうものですか。

 

A.

(1)傷害保険では、急激性、偶然性、外来性の3つに当てはまらないものが免責になります。一般的には病気です。そして、地震や噴火等による天災事故です。これらは、残念ながら補償されません。
(2)活動の内容によって通常の傷害保険では適用されないものもあります。例えば、アイゼンやピッケルといった器具を使った山岳登攀です。こういった危険を伴うような活動については、通常の傷害保険では補償されません。
(3)沢遊びで足を滑らせたような事故については、一般的には傷害保険の対象として補償されますが、ザイルを使わなければ登れないような危険な活動については問題があります。こうした活動の場合は、プログラムの危険度をよく見て、保険の対象になるかどうか、事前に保険会社に相談します。

 

Q06.

活動時間外のケガなどに対しては、どのような保険をつければよいのでしょうか。

 

A.

(1)傷害保険の中でも、活動等の内容によって保険のつけ方が変わってきます。日帰りの場合は、一般に「レクリエーション保険」というのがありますが、これは活動中のみを補償するものです。子どものケガや事故は、例えば風呂で滑って骨折したとか、じゃれあっていてケガをしたとか、2段ベッドから転げ落ちて骨折したとか、意外と自由時間に起きるものが少なくありません。
(2)宿泊を伴う活動プログラムの中で、活動プログラムに限定した傷害保険では、宿泊中の事故には全く対処できません。宿泊を伴うのであれば、「国内旅行保険」を付けることがお勧めです。特に小さい子どもを預かる場合は、その間は主催者の管理責任が問われるのが通常ですから、最初から国内旅行保険を付けることがベストです。

 

Q07.

刃物を使う下草刈り、枝打ち、間伐等、ケガをしやすい活動に対する傷害保険には、どういうものがありますか。

 

A.

(1)1日で活動が終わるようなレクリエーション保険では、下草刈り、枝打ち、間伐等の作業活動は免責になっています。こうした場合は、とりあえず国内旅行保険を付けることです。1日の活動であっても、国内旅行保険に加入すれば補償されます。
(2)また、例えばチェーンソーを使う活動で、体験活動の一環という程度であれば、国内旅行保険で一応対応できると考えられますが、本格的にチェーンソーを使う活動となると、かなり専門的な技術が必要になります。そうしたところは、保険会社によく相談することですが、そういう相談をしても、保険会社が果たして引き受けてくれるどうかという問題があります。

 

Q08.

その他団体活動で加入する傷害保険には、どのようなものがありますか。

 

A.

ボランティア団体については、専用の「ボランティア保険」があります。これは、傷害保険と賠償責任保険がセットになっているもので、各地方自治体が窓口になって引き受けているところもあります。もう一つは、スポーツ少年団等の活動を対象とした「スポーツ安全保険」があります。最近、NPO法人向けの保険商品が出てきています。この商品では、NPO法人の活動によって補償されるもの、されないものがあります。保険会社によく聞くことが必要です。

 

Q09.

主催者側に付ける賠償責任保険の仕組はどうなっていますか。

 

A.

(1)賠償責任保険の仕組には、説明の難しいところがあります。専門的になりますが、賠償責任保険は、1つは偶然の事故によって、2つは他人に損害を与え、3つはそれによって法律上の賠償責任が生じ、4つはこれによって被る損害を補償するという、この4つの要件に該当しないと発動しません。
(2)傷害保険のように「これは出ます」、「これは出ません」ということを一概に言えないものがあります。補償金額の大きいものもありますし、実際にはケースバイケースで判断するところが多くなります。また、法律上の損害を弁償するということになるので、管理責任と絡んでかなり高度な判断が必要になります。さらに、民事上の損害賠償とか、被災者側の感情問題とか、いろいろ複雑に絡み合った問題に発展することもありますが、傷害保険と同じように賠償責任保険も不可欠であり、セットで入っておく必要があります。
(3)なお、事故といえば参加者の方に目が行きがちですが、意外とスタッフや指導者の事故も多く発生しています。自分一人であればそうした事故はまず起こらないと考えられますが、気持ちがやはり子どもたちの方に向いている。それで手元を狂わせてしまうということもあります。当然ながら、スタッフなどにも傷害保険を付けておく必要があります。

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